パイオニアとボイジャー探査機に載せた,地球からのメッセージ

1972年と1973年に打ち上げられたパイオニア10号および11号探査機と,1977年に打ち上げられたボイジャー探査機には,地球外生命体へのメッセージが取り付けられました.2機のパイオニアに取り付けられた物は,長方形の金メッキアルミニウム板.ボイジャーに取り付けられた物は,金メッキされた銅板のレコードにアルミニウム製のカバーが付いています.

パイオニア探査機に載せた,地球からのメッセージ

パイオニア探査機搭載の金属板には,人間の男女の姿とともに,探査機の故郷である地球に関する情報を示す記号が描かれています.ボイジャー探査機搭載のレコードカバーには,地球の生命や文化の存在を伝える画像,レコードには音声が収録されています.

これらは,アメリカの天文学者であり作家でもあった故カール・セーガン(1934-1996)が,クリミアで地球外生命体との交信に関する講演を行っていた時の聴衆のアイデアに端を発します.惑星探査機に人類からのメッセージを搭載するというそのアイデアに強く興味を持ったセーガンは,パイオニア探査機の打ち上げが迫るなか3週間で準備され,搭載されました.

板の最上部に描かれたふたつの円形の絵は,水素原子とその超微細遷移の概念図である.水素原子の軌道電子のスピンが上向き(平行)から下向き(反平行)に変わることで放出される電磁波の波長(約21 cm)と振動数(約1420 MHz,この逆数で約7×10-10秒)がそれぞれ長さと時間の単位として用いられることを示しています.これ以降の図版でもこのふたつの単位が使われています.

板の右側には,男性と女性の姿が描かれています.女性の右側に書かれた,女性の身長を示す二本の水平線の間には,二進法の8(1000)が記されています.これは水素の21 cm線の波長を単位として,この女性の身長が 8 × 21 cm = 168 cm であることを示しています.男女の姿の背後には,パイオニア探査機の外形が人間と同じ縮尺で描かれています. 金属板の左側には,ひとつの点から放射状に伸びた15本の直線が描かれています.これらのうち14本は太陽から各々のパルサーまでの相対距離を示しており,二進法の数字が書かれています.この数字は水素の21cm遷移の振動数(の逆数)を単位としたパルサーの周期を表しています.パルサーはそれぞれ固有の周期のパルスを発しており,その周期は時間とともに変化するので,その周期からこの探査機が打ち上げられた時代を計算することができます.残りの1本の線は板の右方向,人間の絵の背後へと延びています.これは太陽から銀河系の中心までの相対距離と方向を表しています.

板の最下部には,我々の太陽系の概念図とともにパイオニア探査機が描かれています.パイオニア探査機が打ち上げられた当時は冥王星も惑星のひとつでした.各惑星の上下に書かれている二進数は,各惑星の太陽からの相対距離を表しています.水星の軌道半径を10(1010),地球を50(11010)と表しています.

ボイジャー探査機に載せた,地球からのメッセージ

ボイジャー探査機に搭載されたレコードカバーには,パイオニアの金属板と同様に水素原子の遷移とパルサーの相対位置が描かれているほか,レコードに収められた画像や音声情報の再生方法が解説されています.

カバー左上の円は,レコードとピックアップカートリッジを表しており,その周囲には,レコードの回転させる周期が二進数で記されています.つまり,100110000110010000000000000000000と書かれており,これは10進法で5,113,380,864に相当します.これに水素原子の超微細遷移周期である約7×10-10秒を乗ずると3.5999秒となり,この時間でレコードが1回転する速度で再生して欲しい,という意味が込められています.

レコードを示す円の下には,レコードを横から見た絵が描いてあります.レコードの下に二進数で書かれている数字は,10進法で4,587,025,072,128に相当し,これに約7×10-10秒を乗ずると,3229.377秒=約53.8分となります.これが,このレコードの全再生時間を表しています.

レコードには音声情報の他に画像も収録されています.カバー右上の,ノコギリの歯のような2つの波形とその下の2つの四角形は,この画像の読み出し方を解説しています.一番上の波形は,まず左端の周期的なギザギザによってこれが波であることを示し,それに続く不規則な形状には二進数で1,10,11,すなわち10進法で1,2,3と番号が振られ,具体的な画像データの波形を表しています.その下のシンプルな三角波形は上のギザギザを簡略化したものであり,ブラウン管の走査線に相当することを示しています.2つの波形の間に二進数で書かれた101101001100000000000000は,10進法で11,845,632,これに約7×10-10秒を乗ずると,8.3396ミリ秒にあたります.つまり,1つの波(1本の走査線)が約8ミリ秒で描かれることを意味しています.

その下の四角形の中には,先ほどの簡略化された波形,すなわち走査線が描かれています.四角形の上には,左から二進法で1,10,11・・・1000000000,すなわち10進法で1,2,3・・・512と書かれており,512本の走査線で画像が作られていることを示しています.以上の情報を正しい方法で描画した場合にできあがる「手本」が,その下にある四角の中に丸が描かれた絵です.

(courtesy NASA/JPL-Caltech)