Education / 教育・学生指導
基本理念
自分が抱く興味に素直に向き合えて,分からなかったことが分かった瞬間を楽しいと思えるようになってもらいたいです.惑星科学(地球惑星科学とか宇宙地球科学とか,色んな呼び方がありますが大した差違はありません)は,天体や天体間空間の様々な仕組みについて,物化生地の「理科」の視点・知見を基盤に,「数学」を使って定量的に理解し,「英語」や「国語」で記録し伝える総合学問です.すなわち,基本法則を追求する諸学問を融合した分野が惑星科学と言えます.その融合を一人で行えるに越したことはありませんが,現実にはなかなか難しいですから,人それぞれが得手とする学問(科目)を融合することで,自然がどのように機能しているのかを理解し,その楽しさを共有して人類知へと遺していきます.つまり,「目的のためには手段を選ばない」姿勢も大切であり,固定観念や先入観にとらわれない柔軟な考え方ができる(楽しめる)ことが重要です.また,様々な人や分野との「融合」を実現するために不可欠な作法や協調性を備えた,「バランスの取れた大人」であってほしいと願います.
研究では様々な困難にも直面しますが,予想と違う結果や事実に直面しても落胆することなく,それと冷静に対峙する気概を持つとともに,むしろそれを楽しい・面白いと感じられれば,研究の道はおのずと拓かれます.
科学,を考える
地球や惑星の話へ踏み込む前に,まず【科学】の話.科学(狭義で自然科学)とは「自然界で起こる諸現象の因果関係を探る」ことです.どういう条件下でその現象が起きるのか,色々な素過程や条件の組み合わせを試行錯誤しながら原因と結果のつながりを探っていくアプローチが科学です.それは,自然界の理解そのものを目的とした,人間の知的な本性から来る探求の営みとも言えるでしょう.くだいて言えば,この世の中の様々な仕組みについて理由付けをする過程が科学だと考えています(科学に基づいて自然界が動いているのではなく,科学という道具を使って自然界の仕組みを説明すること).これに対して,日本で良く耳にするのは【科学技術】という言葉です.何千年も前から,自然界の仕組みそのものの探求に大きな価値を見出してきた欧米の文化では,科学技術ではなく科学そのものが重視されてきました.しかし日本において認識されてきた科学の最大目的とは,【技術】を産み出し人間生活の直接の利益になる(商売になる)ことです.その結果,日本では「自然界の因果関係・仕組みを探る方法としての科学」を重んじる芽が育ちにくい土壌が広がり,科学技術ばかりが重宝されるようになりました.
私の興味はあくまでも科学です.自然界の諸現象の中でも,特に地球や月などの天体の歴史や進化といった時間空間的規模の大きな現象に対して物理学的・化学的な説明を与えることに,大きな魅力とやり甲斐を感じています.
配属希望の学生へ
「惑星物質学グループ」への配属となります.学部卒業研究のための研究室配属を希望する学部3年生は,毎年1月下旬に行われる「研究室配属のための研究室説明会」に,大学院博士前期/後期課程での研究室配属を希望する方は,毎年4月下旬に行われる「大学院入試説明会」に必ず出席し,かつ,必ず研究室を訪問して下さい。
研究テーマ 最初は曖昧で漠然としていても良いですし,むしろそれが普通でしょう.そこから時間をかけて議論を重ね,本人の好み・指向や科学的重要性などを鑑みながら形にしていく過程に重きを置きます.そこではもちろん,自分が「何をやりたいか」に向き合うことが大切ですが,そういった「ポジティブリスト」だけでなく,逆に興味の薄いことや苦手な分野などの「ネガティブリスト」も自分に問うて整理して下さい.また,手法としての得手不得手や好き嫌い(プログラミングが得意,とか,野外調査は苦手,など)も重要な要素です.ただし,不得手や食わず嫌いもそのままで良いという意味ではなく,あくまでも研究テーマの絞り込みに向けたキーワードが欲しいという意味です.大切なのは,立ち向かう研究課題に応じて手段を問わず最適なアプローチを取る,という姿勢です.
研究室選び 研究分野への興味だけで研究室を選んではいけません.上でも述べたように,配属希望や願書を出す前に必ず研究室を訪問し,直接に相談へ来て下さい.それをしないまま希望した場合に円滑な研究活動が行えるかどうかは無保証です.円滑な研究活動のためには,研究室が持つ雰囲気も重要です.世の中の色々な物事と同じように,研究もまた,人との繋がりが本質です(ひとりで研究者としてやっていけるのならば大学にいる必要はありませんし,大学に所属してることは研究者の条件でもありません).優秀な能力・素質を持ちながら,教員との相性が合わずに力を発揮できないケースをしばしば見かけます.私は誰との相性も良いなどとは決して言いませんが(そういう八方美人な態度をする教員が居たらむしろ要注意),実際の雰囲気は会ってみなければ分からないものです.研究テーマや過去の業績といった外回りの情報も大切ですが,それだけで済ませずに是非とも研究室を訪問し直接に相談して下さい.また,教員だけでなく他の学生やポスドク(博士号を持った任期付き研究員)にも話を聞き,自分がこの研究室に入った状況を想像して判断して下さい.他の研究室での評判を聞いてみるのも良いでしょう.
研究の心得 大切なことは「無知の知」です.自分が何を分かっていないのかを自覚するところから学びは始まります.私の学生時代は博士課程で大学院を変えたこともあり,周囲との遅れから「こんなことも知らないのか」と言われることを恐れて自分の無知を隠していました.しかし「そこ,わかりません」とハッキリ口に出せるようになって,理解が一段一段進んでいくことの楽しさを得ました.「わかる」ことの楽しさを共有できることが私の望みでもあります.つまり何よりも大切なことは,自ら知ろうとする姿勢です.それが感じられない人に手を差し伸べ卒業させてあげるようなことはしませんし,言われたことしかできない(しない)人にはまるで向かない分野ですので,他の道を行きましょう.また,研究活動の基底には人同士の信頼関係が不可欠です.そのためにはぜひ,ひとりの大人としての常識や作法を弁えた,バランスの良い人間になって下さい.
大学院進学について 大学院は学部のアディショナル・タイムではありません.大学学部と大学院は明確に違います.学部の4年間はそれを卒業した時点で明確な区切りがあり,大学院の修士課程と博士課程とがひと続きになって,研究者としての修行を積むことになります.従って,大学院は自分で主体的に研究を進め,最終的に自分の研究テーマに関しては指導教員を越える知見を持つことが求められるのであり,大学院へ進学する際にはその覚悟を持って下さい.惰性で進学するのは以ての外ですし,痛い目に遭います(遭ってもらいます).大学院は,努力賞で修了できる場ではありません.修了に必要なレベルに達しないと判断すればシンプルに修了を認めないのが大学院です.そうした中で,自らの知的好奇心と努力を重ねた当グループの学生さん達は,下に挙げたようなテーマで修了を果たしてきました.参考にして下さい.
研究指導(これまでの学位論文)
- (阪大理 = 大阪大学理学部,阪大院理 = 大阪大学大学院理学研究科)
- 磁場発生条件から探る木星衛星ガニメデの内部構造推定(2023年度学士論文 阪大理 川上稜平)
- 地上望遠鏡を用いたエウロパ可視近赤外観測による軽金属元素と非H2O氷の探索(2022年度修士論文 阪大院理 鶴海達大)
- Enceladusプルームの土星リングへの組成的影響とプルーム活動期間(2022年度修士論文 阪大院理 山口朋恵)
- 氷天体の内部進化におけるアンモニアの寄与(2022年度修士論文 阪大院理 筏明子)
- M型小惑星の鉄溶融:可視分光観測による組成推定と熱進化モデル計算(2022年度学士論文 阪大理 佐藤龍成)
- 氷天体内部の高圧氷相境界が氷固相対流のダイナミクスに与える影響 (2021年度修士論文 阪大院理 有田直哉)
- The Role of Methane Hydrate on Thermal Evolutions of Icy Moons(2020年度博士論文 阪大院理 西谷隆介)
- 海王星衛星Tritonの窒素噴出現象における内部熱構造の寄与 (2020年度修士論文 阪大院理 今井田奈波)
- 木星衛星Callistoの内部進化:不完全な分化と地下海の維持 (2020年度修士論文 阪大院理 松岡夏季)
- 氷天体の表面応力と地下海進化:冥王星衛星Charonの断層形成 (2020年度修士論文 阪大院理 山田幸子)
- 中型・小型氷天体の熱構造と内部構造の進化:地下海の発生条件と存続期間(2020年度学士論文 阪大理 筏明子)
- Forced libration of Ganymede: visco-elastic model including tidal deformations(2019年度修士論文 阪大院理 小島晋一郎)
- 冥王星表面の氷の昇華と凝結による反射率分布の変化(2019年度修士論文 阪大院理 松井弥志)
- 氷準惑星Eris の内部熱進化と地下海の存在可能性(2019年度学士論文 阪大理 有田直哉)
- 冥王星衛星Charonの熱史と地下海進化(2018年度学士論文 阪大理 山田幸子)
- 冥王星表面の氷の昇華と凝結による反射率の変化(2017年度学士論文 阪大理 松井弥志)
- エンケラドスの軌道進化と内部活動(2015年度学士論文 東京工業大学理学部 中嶋彩乃)
- タイタン大気の化学構造モデリング(2015年度学士論文 東京工業大学理学部 Shen Chen)
- ガニメデの膨張地形と熱応力(2015年度修士論文 東京大学大学院理学系研究科 依田優大)
- エウロパ衛星の内部電気伝導度構造推定の検討(2013年度学士論文 東京工業大学理学部 山口雅央)
- 月マグマオーシャンの結晶分化による内部成層の形成(2012年度修士論文 北海道大学理学研究院 押川智美)
- 粉体の低熱伝導率を考慮した微惑星の初期熱進化(2012年度修士論文 東京大学大学院理学系研究科 小川真帆)
- マントル転倒モデルによる月の初期進化(2010年度学士論文 北海道大学理学部 押川智美)
- 土星衛星Iapetusのアルベド二分性とその時間変化(2009年度修士論文 東京大学大学院理学系研究科 森戸久貴)
(公式な指導教員としてではないが実質的に指導・アドバイスしたものも含む)
担当カリキュラム
2024年度
- 通年
- 宇宙地球科学特別研究(大阪大学 理学部(分担))
- 地球惑星物質科学特別セミナー(大阪大学 理学研究科博士後期課程(分担))
-
春・夏学期
- 物理学実験1(大阪大学 理学部(分担))
- 物理学実験2(大阪大学 理学部(分担))
- 地球惑星物質学(大阪大学 理学部(分担))
- 宇宙生命論(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担))
- 地球惑星物質科学セミナー(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担))
- 秋・冬学期
- 物理学実験1(大阪大学 理学部(分担))
- 物理学実験2(大阪大学 理学部(分担))
- 地球惑星物質科学セミナー(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担))
-
集中講義
- 地球科学特別講義1(岡山大学 理学部)[講義ページ]
2023年度以前
- 物理学実験1(大阪大学 理学部(分担))2016-継続中
- 物理学実験2(大阪大学 理学部(分担))2016-継続中
- 地球惑星物質学(大阪大学 理学部(分担))2016-継続中
- 宇宙地球科学特別研究(大阪大学 理学部(分担))2016-継続中
- 宇宙生命論(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担)) 2016-継続中
- 地球惑星物質科学特別セミナー(大阪大学 理学研究科博士後期課程(分担))2016-継続中
- 地球惑星物質科学セミナー(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担))2016-継続中
- 宇宙理学特別講義1(北海道大学大学院 理学院(集中講義))2023 [講義ページ]
- 宇宙の科学Ⅰ(武蔵野美術大学 文化総合(分担)) 2014-2015, 2023
- 物理学セミナー(大阪大学 理学部(分担))2021, 2023
- 地球物質形成論(大阪大学 理学研究科博士前期課程(分担))2016-2019
- 宇宙地球科学2(大阪大学 全学教育推進機構(分担)) 2016-2018
- 生命と環境6:惑星地球の科学(お茶の水女子大学 コア科目 文理融合リベラルアーツ) 2015 [講義ページ]
- 宇宙惑星探査の新展開(北海道大学 全学教育(分担)) 2012
- 地球惑星科学Ⅰ(北海道大学 全学教育(分担)) 2011
- 情報実習(北海道大学理学部地球科学科(分担)) 2009-2012 [講義ページ]